2018年11月29日
所長の眼
所長
神津 多可思
米国トランプ政権の誕生、英国の欧州連合(EU)離脱(Brexit)、欧米での移民制限...。1989年のベルリンの壁崩壊以降の30年、加速しつつ展開してきた世界経済のグローバル化が、これまでとは違う局面に入るのか―。と思わせる出来事がこのところ続いている。しかし、これまでのグローバル化の下で、国境を越えて活動する企業のビジネスの在り方は既に大きく変わっており、それは今後も後戻りできない。
今日、文字通り地球全体が一つの市場として繋がっている。それでも、地域との結び付きの強い言語や文化、宗教などはなお様々に異なるし、経済の発展度合いも決して均一ではない。このため、グローバル市場で活動する企業は、より多様なニーズに対応できるような体制の構築を求められてきた。製品の嗜好も個々の国・地域で異なる。さらにサービスとなれば、何が重視されるかは一層様々である。
こうした状況において、グローバルに偏りなくお客様の満足を実現するためには、色々な工夫が必要になる。「第4次産業革命」とも呼ばれている現在の技術革新の成果も随所で応用可能だ。まず、デジタル化と呼ばれる動きの中で、供給する製品・サービス自体について「何が・いつ・どこで・どのように需要されるか」といった情報が迅速に把握できるようになっている。こうしたデータが蓄積されれば、人工知能(AI)を使って将来の予想がより正確にできる。製品やサービスマンの物理的な移動が円滑にできるインフラ整備が既に進んできたので、その予測に基づいてお客様の満足度を一層改善し、同時に運搬や在庫の費用を最適化することもできる。
また、先進国を中心に高齢化が進んでおり、一部の作業については人手不足が次第に深刻化している。それに対しては、ロボット技術の実用化により、自動化さらには人との共同作業も可能になっている。他方、所得水準の上昇に伴い、お客様のニーズが単に製品の購入だけではなく、その製品を通じて提供されるサービスへと変わってきている面がある。それに対しては、必ずしも1社での対応が容易でないケースも多々ある。その場合は、複数のグローバル企業が協業して、地理的にも内容的にも多様化するニーズに応えていくことが考えられる。情報通信技術の発展は、そうした協業のコストを大きく引き下げている。
先般、社内のサプライチェーン管理を担う幹部のグローバル会議に出席する機会を得た。多様化するグローバル市場において、上述のような新しい技術をも実用化しつつ、様々な取り組みがなされている実情を知ることができ、大変勉強になった。確かにグローバル化のスピードは一旦は鈍化するのかもしれない。しかし、既にグローバル化の扉を開いた日本企業は、グローバル市場の多様性を知り、互いに学び、グローバルにカスタマー・ファーストを目指していかざるを得ない。それはこれからも変わりはない。
神津 多可思